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TOP / お知らせ / Visional City Design Competition 審査員クロストーク「ディストピアの出口について」

2025

04.01

Tue

CORPORATE

Visional City Design Competition 審査員クロストーク「ディストピアの出口について」

第一部 Visional City Design Competition テーマ発表

【登壇者】
武藤 弥(LAETOLI株式会社 代表取締役)
齋藤 精一(パノラマティクス主宰)

武藤 弥:LAETOLI株式会社 代表の武藤と申します。よろしくお願いします。株式会社TRIAD、LAETOLI株式会社、2つの会社を代表して説明させていただき、建築コンペ開催の経緯に触れたいと思います。
TRIAD社は2011年創業です。当社は、不動産投資会社という説明が分かりやすいかなと。色々な事業を運営している中で、2021年にM&Aで買ったLAETOLI社を、僕が代表として作りました。
TRIADとLAETOLIを双輪で経営しています。TRIADは不動産の仕入れ、開発、様々な投資案件の発掘、期中の管理をしている会社です。LAETOLIは、不動産投資クラウドファンディング「COZUCHI」というサービスをやっています。現在8万5000人の投資家さんにご登録していただいていまして、LAETOLIがCOZUCHIを通して資金を調達すると。過去実績でも1000億くらい調達して、TRIADの案件で投資をしています。

もう1社、「COMMOSUS」という会社があります。TRIADとCOZUCHIとCOMMOSUSが三角形となって、様々な不動産投資をしています。COZUCHIは不動産の所有権に対する投資ができます。一方COMMOSUSは、ソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)です。不動産投資はCOZUCHIでできるのですが、例えば太陽光や蓄電池のような設備はCOZUCHIで扱えないので、不動産にまつわる様々な投資ができる資金調達にCOMMOSUSを使っています。
例えば最近、COZUCHIでは「外苑前」駅徒歩2分、青山通り沿いという好立地で2棟のビルを取得し、再開発を前提として動かす案件があります。もう一つ、COMMOSUSでは北参道の開発案件を取り扱っています。物件の特性によってCOZUCHIを使ったりCOMMOSUSを使ったりしながら資金調達を行って投資実行を回しているのがTRIAD社の特徴です。
やはり不動産及び建築は一言で言っても、いろんな問題を抱えています。例えば、今の建築基準法的に問題がある物件、所有者が複数人いる場合の権利関係で問題を抱えているなど、通常の金融機関では取り組めない案件がいっぱいある。それらを、COZUCHIやCOMMOSUSという直接金融の力を借りて資金を流用し、町の再開発などを促していくことをTRIADグループとしては目指しています。

我々が不動産投資をする中で問題になっていることはたくさんあります。それらを解決するために、いろんな方の知恵を借りる機会がないということもあり、建築のコンペティションができないのかなと考えました。齋藤さんとは以前からの知り合いだったんですけども、僕と齋藤さんは同世代くらいで、ちょうど2000年頃に建築学科から出た人間なんですよね。不景気な時代だったため、建築を作る原因から考えなきゃいけないという人たちが、いろんな形の活動を始めた時期だと思っています。僕は不動産投資方面にいきましたが、齋藤さんはアートやテクノロジーなど、建築へ様々なアプローチをする方だと思っていました。今回、都市に起きる課題を考えられるような建築コンペティションができないのかと考えた時、齋藤さんが非常に適任だなと勝手に思い、企画のプロデュースをお願いした経緯があります。

齋藤 精一:建築セクターの人たちは仕事に繋がるためのコンペを開催することが多い中で、すごいビジネスをされているTRIADが、Micro Developmentを題材にしたコンペを実施することが重要だと思っています。僕がはじめにご提案した時の資料から抜粋なのですが、まずは「理想よりも現実」を見ようと思うんです。コンペにありがちな文化施設ではなく、本当に必要な機能と経済性を持った施設・建築を考えるコンペであってほしいと最初に提案したと思います。例えば不動産の一体開発や築古の案件。築古の案件でいうと、町の文化や歴史を尊重しながら、どう都市開発をしていくかを考えないといけない。現実を見るとそこまで大規模な開発はなかなかないんですよね。
今回は、土地を含めて皆さんに選んでもらうコンペなので、現実的なプランを出していただきたいなと。

もう一つは、「デザインとビジネス」。僕はもともと建築学科出身ですけど、今やっていることはデザインの部分と建築の部分と、官公庁を含めた行政の仕事にも多く取り組んでいます。そこで絶対ついてくるのが、自走していくためにどうビジネスとして回していくか。どうしてもデザインの話とビジネスの話が切れて議論されがちなのですが、今回ご提案いただくコンペで扱いたいのは建築デザインに特化したものです。建築がどのように社会に存在するか、ビジネス・経済性を持つかを考えることが重要になります。特に日本の場合、町を作るだけじゃなく運営していく考え方が一体となるケースが多くあります。そういう部分に関してもご提案をいただけるといいと思っているので、建築の読み解きだけではなく、ビジネスプランを出していただいてもいいかもしれません。もう一つは、「建築と不動産」。学生さん・デザイナーさんだけではなく、もしくは建築業界以外の不動産業界、ソーシャルデザインに従事する方々にも参加できる仕組みを築きたいなと思いました。例えば、「町を活性化するためにこういうことやります」「今ある町並みを変えないためにこういうことをやります」とか、そういうアイデアをご提案いただいてもいいのかなと思っています。

ほかにも、僕がいくつか提案したことがあります。まず、「Micro Developmentの促進」。大きな都市開発は都市の中心部で行われていますが、もっと解像度を高く見ていくと、忘れ去られたような場所・土地・不動産はたくさんある。そこで必要な機能は何なのかなどに着目したいと思いました。あと、「都市開発の新たな手法の探求」。都市建築の専門家だけが考える都市開発ではなく、広く様々な分野の方たちの視点を入れたい。審査員の方々の中には、建築分野の方々ももちろんいらっしゃいますし、人類学、ジャーナリストの方々も入れていきます。次に、「不動産 × 表現の可能性の探求」。デザインだけを募集するコンペではなく、リアルな不動産課題と表現を掛け合わせることで、新たな可能性を見ていきたいと思います。最後に「マルチメディアコンペティション」。建築だけではなく、ビジネスモデルや新しい法律の読み解き方の提案などもありだと考えています。建築デザイン/不動産アイデア/イベントアイデア/アート表現……様々な分野へのクリエーションを受け付けられるようなコンペを作っていきたいなと思っています。

今回のコンペティションタイトルは何がいいかと考えた時、「創造都市:Creative City」「想像都市:Imaginal City」の中間として「想造都市:Visional City」というアウトカムを提案しました。
新しい都市提案を目指すコンペとして、「Visional City Designn Competition」というコンペタイトルを付けました。頭文字を取って「VCDC」が読みやすいので、ぜひ読んでいただければ。建築デザインコンペティションということで、都市に返ってくるようなことをしていきたいなと思っています。

そして、今回テーマは色々悩んだ結果、「ディストピアの出口」と僕の方でご提案させていただきました。いろんな議論を経て、ユートピアの一面だけではなくて、ディストピアをどうしていくのかを考えていこうと。なので、ユートピアは本当に存在するのか? 創造の中で空想に過ぎなかったのではないか? 人の営みにある影の部分に人は視線を落とすことなく、蓋をしてしまっているのではないか? それが現在の都市かもしれない。第1回は「都市の影の出口を探すデザイン」というテーマで今回は募集をします。

正しいユートピアはなかなか定義できないとか、最近SNSを見ていてもディストピアという言葉が出てくると思っています。それは社会情勢的にも混沌としているから。今回、皆さんに提示する都心5区のエリアから自由に選んでもらうのですが、都市の「陰(ディストピア)」になってしまっている部分、都市が抱える問題に対して新しい視点からアプローチをし、未来の都市の姿を共に描いていく提案を期待しています。今回のコンペティションのテーマは「ディストピアの出口」ということで、第2部のトークセッションもこれに則って進行していきたいと思っております。以上です。

第二部 Visional City Design Competition 審査員クロストーク

【登壇者】
中村 寛(多摩美術大学リベラルアーツセンター大学院教授/アトリエ・アンソロポロジー合同会社代表)林 亜季(株式会社ブランドジャーナリズム代表取締役CEO)
藤本 壮介(藤本壮介建築設計事務所主宰)
谷尻 誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE株式会社 代表取締役)
武藤 弥(LAETOLI株式会社 代表取締役)
富田 奈利次(株式会社TRIAD 執行役員)
齋藤 精一(パノラマティクス主宰)

齋藤 精一(以下、齋藤):本コンペはトークセッションにご登壇の皆さまに、審査員として参加いただけることになりました。それぞれ多様なバックグラウンドをお持ちですので、まずは皆さんの方から自己紹介をしていただければと思います。では、中村さんから(席順に)。

中村 寛(以下、中村):多摩美術大学のリベラルアーツセンターという教養科目を扱っている場所で、文化人類学を担当している中村です。僕はアカデミックキャリアからスタートしているのですが、これまで扱っているテーマが社会課題や制度に関わってくるものでして、それを論じてるだけではなく社会実装に向けて取り組めないかと考えていたところに「デザイン人類学」に出会いました。一言で言うと、デザインと人類学を掛け合わせながら、新たな価値を生み出すという取り組みです。それを当時日本で扱っている人がほとんどいなかったので、事業を始めてみようということで会社を立ち上げて、今もそのような活動を行っています。本日はよろしくお願いいたします。

林 亜季(以下、林):本日はよろしくお願いいたします。私はもともと朝日新聞社に記者として入社しまして、ハフポスト日本版、Forbes JAPAN Web、ニューズピックスなどのメディアに携わった後、独立しました。本コンペのテーマは「ディストピアの出口」ということで、そのようなコンペに審査員としてお声がけいただいたのは、おそらく現代社会が抱えている課題に対してジャーナリスティックな視点からお伝えすることを期待されているのだと感じております。また、「建築」という私にとって新しいジャンルに携わらせていただけたのも大変光栄に思います。

藤本 壮介(以下、藤本):建築家の藤本です。東京と仙台、そして中国・深センとフランスのパリに事務所がありまして、色々なところで建築物を作っています。最近は、まもなく開催される大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)の会場デザインなどにも携わったりしております。

谷尻 誠(以下、谷尻):同じく建築設計事務所をやっております、谷尻です。僕は建築に関わる事業を立ち上げたり、ベンチャー企業を経営したりしているのですが、その背景として“設計者”としてお金のことを含めた事業全体のことまでコミットしながら携わっていくというものがあります。というのも、建築家って基本的にクライアントからのオーダーに対して、予算内で建物を作るのが仕事だと思うのですが、建築家自身が「その内容が正しいのか?」と精査して、それを設計段階で反映できることはほとんどなかった。今回審査員として呼んでいただいたのは、おそらくそういった活動を見てくださったからだと感じていますし、本コンペを通して建築家自身も社会にコミットできるということを世の中にお伝えできればと思っています。

武藤 弥(以下、武藤):LAETOLI株式会社の武藤と申します。僕も学生時代から建築を学んでいて、建築家を目指していたのですが、なかなかその機会に恵まれなくて。不動産投資の方にシフトして、リノベーションの会社を経営するに至りました。その後、リーマン・ショックで苦労した時期もあったのですが、それを経て現在は建築設計の部分というよりも、その前段階から携わって“まち作り”から取り組む事業を行っています。

富田 奈利次(以下、富田):本コンペの主催者である、株式会社TRIADの富田です。私も建築科出身なのですがちょっと異色の経歴でして。キャリアとしては商社に20年ほど勤めて、国内外ファンドからインフラ工事の開発まで携わってきました。その約半分が(本コンペのテーマと)まったく異なるインフラ事業で、中国やインドネシア、ベトナムなどの国々で開発に携わってきました。そこから、いわゆるマイクロディベロップメントと言いますか、小さい“影”の部分にフォーカスした“影”の不動産プロジェクトに携わったのですが、そういった事業はファイナンス的支援がつきにくい、かなり複雑なテーマでもあります。そうした事業に対して、国内外のファンドさんからの資金調達であったり、資金をつけて不動産の価値を上げたりすることに現在は従事しています。そんな中で、我々が特にブーストをかけているのが、それらとはまったく別の新しい課題解決方法を模索すること。本コンペでは、皆さんのお知恵を拝借してさらに視野を広げられたらいいなと考えています。どうぞよろしくお願いします。

齋藤:ありがとうございます。最後に齋藤も自己紹介させていただきますと、僕も当初は建築家を目指していたのですが、メディアデザインや広告代理店の道に進んで、建築業でのキャリアは中断したんです。ですが現在では建築や地域というものを読み解く、いわゆる都市開発的なプロジェクトに携わったり、行政とそういった取り組みを行ったり、経営支援プロジェクトをやらせていただいたりしています。例えば、廃線になるような高速道路をどういうふうに活用できるのか、みたいな内容ですね。「都市課題」というと少し堅苦しいですが、「都市をどう面白くできるか」ということに注力しています。改めまして、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

#コンペは課題の本質を見出すための“筋トレ”である

齋藤:さっそく本題に入ります。まずは、コンペというものについて。建築関係を学んでいる学生はコンペに作品を提出する機会が頻繁にあると思いますが、結局コンペってどう活用すれば良いのでしょう。まずは藤本さんから、アドバイスがあればお願いします。

藤本:僕が学生の時にやっていたコンペと最近のものは大分状況が異なると思うのですが、「とにかくチャレンジしては負ける」ということが大切。特に、最近のは難しくて(自分が挑戦しても)勝てないなと思います(笑)。
何度か開催されているコンペって、それぞれ何となく方向性があると思うのですが、それを狙って応募するのはあまり面白くないと思っているんですよね。そうじゃなくて、自分が興味のあるテーマを追求して、腕に磨きをかけるために活用してほしいなと。各コンペの傾向に合わせて対策してしまうと、自分の考えがブレてしまうので、軸となる考えは大切にして取り組んでほしいなと思います。
良いコンペというものは、自分の視野を広げさせてくれるもの。特に本コンペは難しいテーマだと思いますので、それぞれが取り組んでいることや考えていることを、まず試してみる機会にしていただけたらと思います。あとは、「コンペは負けるのが基本」ということを知ってほしいです。もちろん勝てたら良いのですが、例え負けてしまったとしても、自分の中に新しい視点が生まれたらそれはそれで素晴らしいこと。そして、コンペって「次こそは勝てるかもしれない」という高揚感やモチベーションを与えてくれる存在でもあるんですよね。僕は大学卒業後、6〜7年ほどプラプラしてた時期があったのですが、コンペがあったからこそ前向きにやってこられたのかなとも思います。

谷尻:僕は藤本さんよりもっとコンペに負けた経験があると思います(苦笑)。どのコンペにも応募要項があると思うのですが、それに真正面から答えるべきなのか、それともそこに記載されていない問題を探していくべきなのか、“まずは問題を定義する“というところからスタートするんですよね。もしそれがクライアントが存在するプロジェクトだった場合、要項に記載されていないこと以外のアイデアを提案すると「そんなの頼んでないよ」と言われてしまう。でも、コンペでは“問題”を自ら設定してアイデアを生み出せる。つまり“頼まれていないこと”まで考えられるので、その力を養っておくことは、大切だと思っています。そうすれば、いざ(業務上での)プロジェクトに携わった時、その物事の本質にも気付くことができると思うので。そういう意味では、コンペって筋トレみたいなものですよね。普段トレーニングをしていない人が、いざ力を出そうとしてもなかなか難しい。“頼まれていないこと”であったとしても、それを考えておく練習をしておくのが大切だと思います。

齋藤:ありがとうございます。本コンペについても、要項をもとに各自で課題を定義して、それに対する提案を求められる部分があるので、そこも楽しんでいただきたいですね。

#一つの問題に対して、多面的なアプローチを

齋藤:では次に、富田さんはいかがでしょうか?

富田:色々な視点から、多面的に一つの問題を捉えることで、解決に対するアプローチをとる。(コンペを)そういう機会に活かしていただければと考えています。本コンペで言うと、「ディストピア」という“影”に焦点を当てているので、それに対して建築的なアプローチを取っても良いですし、論文を書いていただいても良い。テーマに関する課題を見つけて、「どういうソリューションが適切なのか」と自由な視点から提案していただければと思います。

齋藤:なるほど。すごく難しいなと思うのが、日本の大きなデベロッパーさんって、読み解けない部分も多くあるんですよね。たぶん皆さんの中にも、街を歩いていて「なんでこんなところに古い物件が残っているんだろう?」と疑問に思うところもあるかなと考えているのですが、所有権などの事情で古いものが残ってしまう現象が起きているケースもあって。そうした課題を(富田さんが執行役員を務める)株式会社TRIADさんが丁寧に解いていらっしゃる印象があるので、本コンペに参加される方もそういった視点を持っていただくと良いのかなと思います。

#良かれと思った都市開発が、負に転じることもある

齋藤:では次に「都市開発」というテーマについて、中村さんと林さんにお伺いします。まずは林さんから、今の都市・都市開発について思うことについて教えてください。

中村:私が初めて本格的なフィールドワークを始めたのが、ニューヨークのハーレム地区でした。ハーレムは、1990年代頃から再開発が非常に盛んになっていて、2000年代に入って急速に街が変化していった感覚がありました。同時に、人類学や社会地域の研究をしている人たちの間では「ジェントリフィケーション(gentrification)」というワードが注目されていて、都市再開発がどのように起こっていて、それによってどんな機会が失われていってしまうのかということが研究されていたんです。そうした経緯もあって、個人的に魅力的だなと思う街って、とある人類学者の言葉を借りて表現すると「(その場所に)息づく感情がある」街だと思いますね。公共施設の中で比較的法律に縛られていない、「共 commons」の場所が、どういうふうに使われていて、そこで人々がどのように動いているのかを見ることは、(その“感情”を見ることができるため)非常に興味深いと感じます。

齋藤:例えるなら、『ドラえもん』でみんなが集まる空き地のような場所ですよね。少し話は逸れますが、僕は以前ニューヨークにある「ハイライン(線形公園)」の調査に携わっていたのですが、コロナ禍でその周辺の土地がほとんどブローカーに買収されてしまって、そこの住民たちは退去させられてしまったことがありました。そうなると、その街のコミュニティも景観も変わってくる。それを見て思ったのが、街の人々のために良かれと思って作られたものが、街を壊してしまう可能性もあるということ。つまり、時が経つにつれて経済状況が変化し、プラスになると考えられていた都市開発が負に転じてしまうケースもあるんですよね。

#今の都市開発は、課題設定が後付けになっている?

齋藤:さて、続いて林さんにお伺いします。今の都市・都市開発について、どのように考えていらっしゃいますでしょうか?

林:メディアをやっている立場からすると、思うことが2点ほどあります。1つは、デベロッパーさんや都市開発を担当されている方から「今度こんな建物を作るのですが、どう訴求したらよいか」と相談されることがよくあるのですが、その時点ですでに入居予定のテナントさんが決まっているケースが多くて。個人的には、順番が逆なのではないかと思うことがあるんです。本来であれば、課題を設定したうえで建物を建設して、街を作っていくのが良いのかなと。2つ目は、有事の際の対応力をつけるべきだということ。去年私事でドバイに行った時、大雨による過去最大の水害に遭ってしまいまして。「しばらくは日本に帰れないな」と考えていたのですが、翌々日にはもう道路が復旧して空港も営業再開していたんです。その対応力がすごいなと、心から感動しましたね。日本ないしは東京のような都市も、非常時にきちんと対応する力が必要なのだと、気付くきっかけになりました。

齋藤:ありがとうございます。林さんの「(都市開発において)順序が逆なのでは」というご意見に関しては、僕も同じようなことを考えていました。おそらくマーケティングベースで進めているためだとは思うのですが、もう少し長期的なビジョンがあったほうが良いなと考えています。

#都市開発は、金融が支配している部分が大きい

齋藤:では続いて、武藤さんからも、今の都市開発についてご意見を伺えますでしょうか。

武藤:僕たちがやっている領域から申し上げると、都市開発はやっぱり金融が支配している部分が大きいなと感じているので、そこにある種の“多様性”が必要なのかなと考えています。2008年のリーマン・ショックを契機にファンドバブル(不動産バブル)が崩壊して以降、不動産を売っては新しく作る……という動きが急激に収縮したことで、業界全体がめちゃくちゃになってしまったんですよね。例えば、当時建設中だったプロジェクトが突然中止になってしまったり。
そうした課題を解決するために、僕たち(LAETOLI株式会社)は不動産投資型のクラウドファンディングを作り上げたのですが、そこでは金融期間からの借入ではなく、投資家さんからの直接的な支援をもとにしています。そうすることで「今すぐに返済して」と駆り立てられる心配もなく、その間にお金を生み出すこともできますし、もしインフレーションが発生したら様子を見るための時間も生み出せるんです。
僕は建築学科を出ていますけれども、こういったお金に関する知識や「不動産金融学」みたいな学問を学ぶ機会なんてないんですよ。ましてや、明日から“建築でお金を生み出して生計を立てる方法”なんて、誰からも教えてもらえない。なので、本コンペに作品を応募してくれる方は、「資金調達をどうするかどうか」という側面も含めて提案していただけたら非常に面白いですし、金融にも興味を持ってくれる方が増えたら嬉しいなと思います。

#真のディストピアとは、現状も解決策も分からない状態を指す?

齋藤:ここからは、本コンペ初年度テーマ「ディストピアの出口」についてお伺いしたいと思います。「ディストピア」は色々なところで聞くようになった言葉だと思うのですが、このテーマについて率直にどう思われたでしょうか? 藤本さんから伺います。

藤本:まず「“ディストピア”なんて、齋藤さん一体どうしちゃったの?」と思うと同時に、難しいからこそ面白いテーマだなと思いました。個人的な感覚で言うと、5年くらい前からものすごい勢いで(建設・不動産業界において)時代が変化してきているなと思っていて、デベロッパーさんたちも「同じ勝利の方程式を繰り返しても意味ないかも」と気付き始めているなと思うんです。まさにその「現状がよく分からないし、どうすれば良いのかも分からない」という状態こそがディストピアなのかもしれません。
なので、抽象的な言葉ではあるのですが、「(現状は厳しいかもしれないけれども)もしこうできたら面白いよね」というアイデアこそが力を持つと考えているので、皆さんのアイデアを楽しみにしています。

齋藤:まさに仰る通りで、もういい加減現状に目を向けなくてはいけないと、僕自身も感じています。現状に対して批判や不満を言うのは簡単なのですが、その課題を解決するために“どうアクションを取れるか”を考えることこそが必要なのだと。

#建築における、“お金の知識”の重要性

齋藤:谷尻さんは、今回のテーマ「ディストピアの出口」および建設業界について、どのようにお考えですか?

谷尻:まず、建築を扱う我々の課題(ディストピアから抜け出すために必要なこと)としては、お金に関する知識を身に付けておく必要があるなと感じています。例えばデベロッパーさんから「この金額で建物を作ってほしい」と言われた時、建築家がお金の使い方自体をアドバイスできる段階まではいけていなかったなと。今は建設費がどんどん高騰していますが、費用を抑える方法を考える時にまず人件費を下げようだとか、既存の選択肢の中でできることを考えてしまう人が多いなと思っていて。そうではなくて、その根底から見直すことが重要。そのためにはきちんと知識が必要なのだと考えています。

富田:私はもともとデベロッパーにいたので内情が分かるのですが、正直に言うと“キラキラの土地”、例えば土地入札から始まるような“買えない土地”って存在するんですよね。そのようなプライスをつけられない土地に対して、どんなソリューションを提供するかを考えた時、当然ですがその答えは周辺環境によってまったく変わってくるんです。なので、本コンペでは「ディストピアの出口」をそれぞれ定義していただいて、それぞれのソリューションを提案していただくわけですから、我々としてもすごく楽しみにしています。

#どの街も角が取れて丸く、似たような風景に?

林:本コンペに参加される方はあらゆる課題を自分事として捉えてみて、「自分だったらどんな行動を起こして、解決していくのか」を考えてみてほしいと思いますし、それこそに意味があると感じています。世の中に対して「これはおかしい」と思うことがいっぱいあったとしても、“やらない方が楽”と言いますか、「自分たちで変えていこう」と行動を起こすのはなかなか難しいと思うんですよね。ものづくりを行う際にも、完成形は角が取れて丸くなっていて一体何のために作ったのか分からなくなってしまうことがある。私はその状況こそがディストピアだなと思っています。

武藤:ユートピアを求めた結果、どこに行っても似たような風景になってきている気がしますよね。それを僕たちみたいな投資に関わる人間がどう考え、行動するのかがすごく重要だと考えているので、本コンペで皆さんのアイデアを頂きたいなと考えています。

#本コンペに寄せる期待「別分野からでも、新たな視点を提供してほしい」

齋藤:では最後に、本コンペでどのような作品やアイデアが出てきてほしいか、期待していることをお伺いします。

林:新規事業を立ち上げている方や、建築とはまったく異なる業界の方からもアイデアを頂けると、とても面白いものが出てくるのではないかなと思っています。本コンペとは一見遠いと思われるもの……例えば、介護問題について取り組んでいる方が「介護×都市」という視点で考えていただくなど。

谷尻:「できない」ことを嘆く人は世の中にたくさんいるけれども、それを実現する方法を提案できる人はすごく少なくなってきている気がしているので、ぜひ本コンペでは自分のアイデアに熱意を持って、周りを巻き込みながら挑戦いただけたらと思っています。

富田:僕たちは(コンペに応募する)皆さんのことをステークホルダーとして捉えております。建築という視点のみならず、アート領域からの視点でも良いと考えていますので、何か一つ問題を提起して、その解決方法について積極的に提案していただきたいなと考えています。

齋藤:では最後に僕からも少し意見を述べさせていただきますと、個人的には「音楽」は街を変える力があるなと思うんです。なので、音楽を最大限にリスペクトができるような場所がどのようなものかを考えてみたり、ビジネスモデルとして考えてみたりする。突拍子もない話かもしれないですが、色々な視点からの切り口があると思いますので、ぜひ自らが解決したい課題やその舞台となる場所を整理したうえで、アイデアをいただけたらと思います。

#本コンペに関する質疑応答

齋藤:では最後に、質疑応答のコーナーに移ります。

Q.1「どのくらいの金額、規模感のビジネスと考えていれば良いのでしょうか?」

齋藤:必ずしも(本コンペで応募したアイデアが)ビジネス的価値を生み出す必要はないと考えているのですが、長期的な視点で見るとGDP向上につながったり、間接的に経済効果を生み出したりするような提案があっても良いかなと思います。もしくは、どんな環境要因にも影響を受けず、一定の価値を保てるようなものであっても同様です。

富田:本コンペで提案いただく内容はボランティア事業として実現する想定ではないのですが、だからと言って「ビジネスにする」という視点で考えすぎなくても良いかなと。それよりも、我々が見落としていた視点や新たな気付きを与えてくれるような切り口で提案いただけると、非常にありがたいと考えています。

Q.2「(「どの街でも景観が似てきた」という発言を受けて)資本主義的に考えると、同じような街・景観に発展することは仕方ないことなのでしょうか?」

谷尻:建築家からすると、実際にクライアントに対してそういった資本主義的な側面での提案をすることも多くあります。例えばマンションを建てる時、1階部分を店舗にしてしまえば(店舗として貸し出すので)家賃を高く設定できるじゃないですか。本来であれば課題となっていたことを“チャンス”として変換し、解決に導けることってそのほかにも存在すると思うので、そうした視点さえあれば、経済的効果をもらたしつつ新しい価値を生み出せるのではないかなと思います。

齋藤:(質問者の「同じような街・景観に発展する」という発言内容に関して)どの街もまるで“金太郎飴”のように似た景観になってしまったのは、2003年頃からだったと思います。東京都には「都市計画区域マスタープラン」というものが定められていて、その上でより大きな経済効果を生み出そうと考えると、結局どこも同じ戦略で戦うしかなくなってしまう。特に日本って、その街が一度リセットされてしまうとまったく異なる特徴を持ったものに変化する……例えば、商業の街だったものがオフィスと宿泊施設に変わってしまうなど、不思議な傾向があるんですよね。その中で“金太郎飴”のような街になっている現状を脱却する方法を、建築的・文化的、あるいは法律的にどうアプローチしていけば良いのかを、ぜひ考えて頂ければと思います。